上腸間膜動脈症候群

上腸間膜動脈症候群(じょうちょうかんまくどうみゃくしょうこうぐん、英語: superior mesenteric artery syndromeSMA症候群(SMAしょうこうぐん、英語: SMA sydrome)と略記されるは、十二指腸水平脚の上腸間膜動脈に循環血流量減少の異常が生じ、食後の腹部膨満、嘔吐、腹痛を呈する疾患の総称である[1][2]

循環血流量減少は、急性胃拡張や大動脈(腹部大動脈瘤[3])や脊椎による圧迫や外科手術後(例えば、脊柱変形手術[4]や下部消化管[5]。)など様々な要因により生じる。腸間膜虚血症においては腸管粘膜が血流量減少の影響を受けると、完全梗塞するよりも前から粘膜バリアが障害される事となり[1]組織壊疽が起こる[6]。壊疽の結果、細菌毒素の影響で敗血症性ショックに至り、多臓器不全により死亡する事が有る[1]

疫学

発生頻度は、一般人口の0.013 - 0.3%と推定され、10 - 39歳の比較的若年者に多く、腹腔内の容積が少ない、若い痩せた女性[7]に多い傾向とされている[8]

上腸間膜動脈周囲の脂肪織の減少、急激な体重減少(低栄養、高度侵襲による異化亢進神経性食欲不振症など)、長期臥床(背側への十二指腸圧迫)、腹側への十二指腸偏移、腸間膜の下方への牽引(手術操作や癒着)などの誘因が重なって発症するとされている[8]

症状

疼痛が典型的な症状で疼痛以外を認めないこともある[1]。食事摂取により増強する上腹部痛、腹部膨満感、悪心、胆汁性嘔吐、などを認める。多くの場合慢性間欠的で、急性発症は稀である。前記症状は側臥位および腹臥位、胸膝位で軽快し、仰臥位で増悪する。慢性型ではるい痩、栄養障害が進行することがある[8]

検査

腹部立位単純X線写真では、拡張した胃と拡張した十二指腸によるdouble bubble をみとめることがある。
造影検査はこの疾患では重要な検査のひとつで、拡張した口側と圧迫され途絶した病変部をみとめる。
鑑別疾患の除外とともに、食事内容により拡張した十二指腸口側と病変部の上腸間膜動脈を認める。また上腸間膜動脈の起始部が鋭角であることを確認できる。
腸管の狭窄部を明瞭に描出できる。また造影CTでは上腸間膜動脈を描出でき、さらに正確な診断が可能である。

治療

治療には保存的治療と手術療法がある。

保存的治療

急性期には絶飲食、胃管留置による十二指腸の減圧、脱水電解質異常の補正を行う。

慢性期には食事の少量分割摂食や食後に左側臥位腹臥位、胸膝位をとるよう指導する(上腸間膜動脈分岐角を広げ食物の通過を促す)。

経口摂取が不十分な場合は中心静脈栄養経腸栄養を行う。これらは、上腸間膜動脈周囲の脂肪織を増やし、上腸間膜動脈分岐角や距離を広げるために行う。[8]

手術療養

保存的治療抵抗例や再燃を繰り返す場合、早期社会復帰を強く希望する場合には外科的手術が考慮される。手術術式としては、

  1. 十二指腸水平脚の上腸間膜動脈からの圧迫を解除する方法(strong手術:Treitz靱帯の分割)、十二指腸水平脚授動術、十二指腸前方転位術、
  2. バイパス手術(十二指腸空腸吻合術)、が挙げられる。

しかし、現在では良好な成績から十二指腸空腸吻合術が標準術式となっており、腹腔鏡下手術が増加している[8]

脚注

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  1. ^ a b c d 『MSDマニュアル』.
  2. ^ 八木淑之、藤野良三、高井茂治、三木仁司、住友正幸、松山和男、尾形頼彦、中川靖士、金村晋史、兼田裕司、黒部裕嗣、寺内明子「上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症(SMA syndrome)に対する腹腔鏡下十二指腸空腸吻合術」『四国医学雑誌』第59巻第1-2号、徳島医学会、2003年4月、68-73頁、CRID 1050282812442832640、ISSN 0037-3699、2024年7月2日閲覧 
  3. ^ 里吉哲太, 杉尾芳紀「上腸間膜動脈症候群をきたした82歳腹部大動脈瘤の1例」『日本臨床外科学会雑誌』第76巻第10号、日本臨床外科学会、2015年、2399-2403頁、CRID 1390001204850969600、doi:10.3919/jjsa.76.2399、ISSN 13452843。 
  4. ^ 高尾恒彰, 前田健, 土井俊郎, 播广谷勝三, 松本嘉寛, 芝啓一郎, 増本幸二, 岩本幸英「症例報告 術後重度の上腸間膜動脈症候群を合併した高度側弯症の1例」『臨床整形外科』第44巻第10号、株式会社医学書院、2009年10月、1057-1061頁、doi:10.11477/mf.1408101613、ISSN 05570433。 
  5. ^ 村瀬寛倫, 安藤拓也, 前田頼佑, 中野浩一郎, 深尾俊一, 伊藤寛「S状結腸癌術後に発症した上腸間膜動脈症候群の1例」『日本臨床外科学会雑誌』第81巻第3号、日本臨床外科学会、2020年、525-529頁、CRID 1390848647559504384、doi:10.3919/jjsa.81.525、ISSN 13452843。 
  6. ^ 繁光薫, 吉田和弘, 浦上淳, 羽井佐実, 猶本良夫「上腸間膜動脈症候群に基づく急性胃拡張による広範囲胃壊死・胃破裂の1例」『日本腹部救急医学会雑誌』第34巻第1号、日本腹部救急医学会、2014年、157-160頁、CRID 1390001204737271552、doi:10.11231/jaem.34.157、ISSN 1340-2242。 
  7. ^ 岡崎雅也, 丸森健司, 福沢淳也, 今村史人, 神賀正博, 間瀬憲多朗「上腸間膜動脈症候群の2例」『日本臨床外科学会雑誌』第69巻第5号、2008年、1242-1246頁、doi:10.3919/jjsa.69.1242。 
  8. ^ a b c d e “上腸間膜動脈症候群,腹腔動脈圧迫症候群(CACS)[私の治療]|Web医事新報|日本医事新報社”. www.jmedj.co.jp. 2023年3月9日閲覧。

参考文献

  • “急性腸間膜虚血症”. MSDマニュアル プロフェッショナル版. MSD製薬 (2020年4月). 2024年7月2日閲覧。

外部リンク

  • 上腸間膜動脈性十二指腸閉塞 [リンク切れ]
  • 急性腹症のCT演習問題
  • お客様がアクセスしようとしたページが見つかりませんでした。[リンク切れ]
  • https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20649 [リンク切れ]
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